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読者の質問コーナー

C.H.さんからのご質問:「相補的」と「特異的」の詳しい意味を教えてください。(サンプル版より)

「相補的」、「特異的」なんていう言葉は、辞書を引いてもなかなかピンと来ないですよね。科学の話をするときは、このような専門用語もどきな言葉が使われて、難解な文章だと感じてしまうのかもしれません。この種の言葉は、生物学の教科書に必ず載っている重要単語ですが、一般の方にはなじみが薄いのは、日本の高等教育に問題があるような気もします。

この「相補的」「特異的」という2つの言葉を自分のものとするには、実は遺伝子の構造を知っていなければなりません。DNAが2重らせん構造であることを皆さん聞いたことがあると思います。下の画像をご覧ください。

DNAの構造
出典:IPA「教育用画像素材集サイト」 http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/

確かにDNAは2本の糸がらせん状に絡み合っているのがわかると思います。らせん階段のステップがあるように、等間隔でこの2つの糸は「塩基」という物質を介して結合しているのです。「塩基」とは図に示してあるアデニン、チミン、シトシン、グアニンの4つのことです。そして、アデニンは必ずチミンと、シトシンは必ずグアニンと結合してらせん構造をつくり上げています。

つまり、アデニンに対してチミンのことを、シトシンに対してグアニンのことを「相補的」といいます。DNAは必ず「相補的」な塩基と対になり、安定な構造を保ち続けているのです。

遺伝子とはこの4つの塩基の配列で決まっています。つまり遺伝子とはたった4文字の並びによって書かれた遺伝暗号なのです。それでは、今回の標的になったアポリポプロテインBの塩基配列の一部(遺伝子の最初から10,000番目の塩基付近)を覗いてみましょう。(わかりやすくするため、10塩基ずつ区切って表示してあります。)

......accccaagtg tcacaatccc tggtcctaac atcatggtgc cttcatacaa gttagtgctg ccacccctgg agttgccagt tttccatggt cctgggaatc tattcaagtt tttcctccca gatttcaagg gattcaacac tattgacaat atttatattc cagccatggg caactttacc tatgactttt cttttaaatc aagtgtcatc acactgaata ccaatgctgg actttataac caatcagata tcgttgccca tttcctttct tcctcttcat ttgtcactga cgccctgcag tacaaattag agggaacatc acgtctgatg cgaaaaaggg gattgaaact agccacagct gtctctctaa ctaacaaatt tgtaaagggc agtcatgaca gcaccattag tttaaccaag aaaaacatgg aagcatcagt gagaacaact gccaacctcc atgctcccat attctcaatg aacttcaagc aggaacttaa tggaaatacc aagtcaaaac ccactgtttc atcatccatt gaactaaact atgacttcaa ttcctcaaag ctgcactcta ctgcaacagg aggcattgat cacaagttca gcttagaaag tctcacttcc tacttttcca ttgagtcatt caccaaagga aatatcaaga gttccttcct ttctcaggaa tattcaggaa gtgttgccaa tgaagccaatgtatatctga attc......

見ての通り、遺伝子の配列はa(アデニン)とt(チミン)とc(シトシン)とg(グアニン)しかありませんね。そして、今回は下線を引いた配列の部分のRNAを自分達で合成して、ネズミに注射したのです。RNAもDNAとほとんど構造は同じなんですが、チミンの代わりにウラシルという塩基を使っています。もちろんウラシルの「相補的」な塩基はアデニンです。

下線を引いた塩基の数はたった21個です。しかし、この塩基配列は、全遺伝子を片っ端から探しても、このタンパク質のこの部分にしかないのです。単純に計算して、この配列と全く同じ配列が他にある確率は(1/4)21=1/4,398,046,511,104(4兆分の1)ですから。

ヒトゲノムの総塩基数は約30億塩基対です。今回の実験はネズミで行われていますが、たった21個という短いRNAを合成するだけで、機能を落としたい遺伝子を必ずターゲットにすることができるのです。それを「特異性」が高いと表現しています。つまり、他の遺伝子に作用して副作用を起こす可能性が低いということを示していて、人ごみの中でも必ず標的を殺すことができるスナイパー見たいな奴が登場したんですね。


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