視覚野の微細構造
2光子励起顕微鏡による単一細胞レベルの脳機能画像化
目から入った視覚情報は、まず眼底の網膜に投影されます。そこで活動した視神経は、脳の中央付近にある外側膝状体(がいそくしつじょうたい)を通って、大脳皮質の一番後ろにある第一次視覚野(V1)まで到達します。V1はブロードマンの領域では17野と呼ばれる所に相当します。
左図より17野(第一次視覚野)が後頭部にあることが分かります。
サルやヒトでは傾き、動き、奥行きなどの情報はV1で抽出されます。そのことは、1962年、HubelとWieselという二人の研究者によって初めて報告されました。彼らは、猫に見せる「線分の傾き」によって、発火するV1の細胞が違うことを見出しました。それはV1の細胞が"好きな方向"を持っていることがわかった歴史的一瞬だったのです。彼らはその功績により、1981年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
最上部に示されている縦の線分がもっとも良く反応しているのがわかります。最下部の横棒では全く応答していません。
その後の研究により、同じ方向が好きな細胞は近くにかたまっていること(カラム構造)、そして、その方向の配置は風車のような模様を示していることが分かりました。しかし、これまでの方法での画像化では解像度が粗く、100個以上の神経細胞を平均した記録しか取ることができなかったのです。光記録という方法を用いて、神経の電位変化や血管の酸素消費量の変化を大雑把にモニターしていました。
反応する方向を色を分けて示してあります。縦棒に反応する領域を水色、横棒に反応する領域をオレンジ色で描いています。
今回は2光子励起顕微鏡を用いることで、個々の細胞の活動をモニターしながら、カラム構造を同定することができました。それによると、カラム同士の境界線は、たった20ミクロン以下の幅しかないことが分かりました。この厳密さは一体我々の視覚機能にどんな役割を果たしているのでしょうか。視覚機能の発達とコラム構造の関係はいかに!今後、この研究室から次々と続報が出てくるのではないでしょうか。
2光子励起顕微鏡の原理は詳しく説明しませんが、高い深部到達性と空間解像を持つ新しい断層顕微鏡法で、細胞や臓器の機能の可視化に近年用いられるようになりました。生きた細胞でも適用できるため、形態と機能を同時に測定できるツールとして非常に重宝されています。でも高価だし、扱いも大変なのですが…。
本論文を発表した研究室は、ハーバード大学医学部のReid研です。動画も置いてあるので、興味があったら訪問されてみてはどうでしょうか。百聞は一見にしかず、見てしまったほうが理解が早いと思います。原著論文も公開しているようです。
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